看護・医療系学校を取り巻く環境と政策医療の行方

『看護・医療系学校を取り巻く環境と政策医療の行方

京都看護医療予備校 学院長 小田 泰之

●社会・経済環境と入試動向

 看護(医療)系の入試状況 就職環境の悪化⇒やや改善により社会人受験生が微減(本校も5割は社会人(大卒含む)・40代を含め30歳代も多い)

早速ですがTVや新聞、その他ネットなどの情報から皆さんもご存じのように現在、わが国は深刻な経済不況(デフレ不況)から脱却し、第3次安倍内閣(3次改造内閣)による景気回復策としてアベノミクスの総仕上げが実施されています。その効果は大手企業を中心に出始め、トヨタ自動車など過去最高益となりそうな企業が数多く出てきました。今後は企業収益が賃金として働き手に還元されていくことで個人消費が伸び、政府のインフレ目標2%達成がいつ達成できるかが焦点になってきました(今年10月に消費増税が予定)。また外国人観光客の増加によるインバウンド消費で観光、飲食業は空前の人手不足となっています。実際、直近の大学生、高校生の就職内定率はバブル期(1989年)を上回る数字が発表され、数字の上では就職環境は過去最高で善くなっています。では今後、景気のさらなる高揚で看護師など国家資格を取得できる学校の志望者は減少に転じていくのでしょうか? 確かに、11年前2008年のリーマンショックにおける世界的に景気の悪い環境下では一般大学へ進学しても思うように就職先が確保できないということもありました。その後数年間は新卒・中途における就職難が続いたことから看護系受験者は社会人も含め大幅に増加した経緯があります。これに対し直近の経済環境の回復で看護系受験者は若干の減少に転じています。最も世界が注目するのは米国トランプ政権であり、その期待により米国・日本の株価は上昇してきました。しかしながら既に始まったTPPから米国が脱退し、鉄鋼25%アルミニウム10%の関税対象国(中国や日本その他)の設定など貿易の保護政策(自国優先の貿易主義)に転換の舵を切り、米国と中国の間で過激化している貿易戦争は大変懸念されるところです。実際にGDP第2位の中国経済の減速は加速度が増しつつあり、これが世界に連鎖する可能性は否めず、わが国においても経済のマイナス要因となり景気のマイナス因子になることは必至です。さらにアメリカは景気回復を足かせに利上げを実施予定してきましたが、ここにきて米国FRB(連邦準備理事会)は金利引き上げを見送る決定をしました。わが国では日銀(黒田総裁任期延長2年)によるマイナス金利政策の実施と金融緩和は継続され異次元の金融緩和は依然続いています。この原稿を書いている2019年3月27日現在、一昨年大きな脅威となった北朝鮮の核開発やミサイル実験は中朝・米朝首脳の会談により、一旦は緊迫感が薄れたものの、今年2月の二度目となる米朝首脳会談は物別れとなり先行きの不透明感が出てきています。さらには最終局面を迎えたイギリスのブレグジット(EU離脱)の行方はもとより、ドイツを含めた欧州(ドイツ以外EU諸国は若年者失業率が高い)においても課題がまだまだ山積されています。真の意味での景気回復、アベノミクス達成はもう少し時間を要し、景気がさらに良くなり就職環境改善と賃金の高分配は今後の動向をしっかりと観察せねばなりません。これを読んでいる皆さんの中にも何か資格を取りたいと考え、数ある資格の中でも将来性や就職の有利さ、さらには経済要因等(※後の回で特集予定の奨学金)を考慮した優先順位の中で、看護職をめざすことを決めた人もいることでしょう。このような社会・経済環境下において、やりがいを感じながら社会に貢献し、なお且つライフワークとして安定した職業を考えた時、看護や医療系の仕事は真っ先に候補として挙がってきます。これは上述しましたが日本だけではなく、世界的に見ても同じことがどうやら言えるようです。下の資料をご覧ください。看護系の大学・学部学科別の入学者数が他学部と比較して毎年の様に増加し、平成13年度~平成30年度の17年間で入学者数が約3倍・約17,400人余り増加していることが理解できます。見方を変えれば四年後の就職を視野に入れた受験生は文系学部(文・法・経済・商・経営・社会学部など)への進学をあえて控えてきたと言えるでしょう。これを読んでいるみなさんの中にも何か資格を取りたいと考え、数ある資格の中でも将来性や就職の有利さ、さらには家庭の経済的理由等を考慮した優先順位の中で看護職や医療者を目指すことを決めた人も多いでしょう。このような社会環境下において、やりがいを感じながら社会に貢献し、なお且つライフワークとして安定した職業を考えた時、看護や医療系の仕事は真っ先に候補として挙がってきます。これは日本だけではなく世界的に見ても同じことがどうやら言えるようです。また、記憶に新しい2011311日の東日本大震災では多くの方が被災され、お亡くなりになりました。地震の二次的被害でもある福島原発の放射能漏れ事故、さらに今年は熊本地震が起こりました。さらに近年、全国的な火山の噴火はもとより、集中豪雨や台風など、本当に恐ろしい自然の脅威と文明の脅威を同時に思い知らされる昨今です。しかしそこには人と人が協力し、助け合う素晴らしい姿や、とりわけDMATJMATの活躍は勿論のこと、医療従事者の専門的ボランティアなど多くの献身的な人間愛が生まれました。それは多くの人々に感動を与えると同時に、自分も社会に貢献すべく医療の道に進みたいと決心させる一因にもなっています。

 

●今後の政策医療の行方と受験生の動向

医療業界における直近の関心ごとは、来年20184月の医療・介護のダブル診療報酬改定と言えるでしょう。皆さんもよく耳にする2025年問題(平成37年)に向けてわが国の政策医療は病院から在宅医療へと転換期を迎えました。私見になりますが20184月の診療報酬改定では急性期の病棟では現在の71から51への変更はおそらく見送りになると推察され、在院日数の削減はあり得ると考えます。もちろんその対価として入院基本料プラス特別加算が今以上に実施されることになるでしょう。簡単に言えば手厚い看護(医師による高度な医療提供と看護師の配置人数が多い)ができる病院・病棟で、DPC(定額医療)手術などをして短い在院期間で次の回復期の病院・病棟へ転院させることでご褒美を与えましょうということです。さらには回復期(現在はDPCではない)でそれぞれの病院が可能な限りの医療やリハビリを実施して自宅に戻ってもらうことが目標となります。とりわけ最近では介護が見込まれる場合は急性期の段階で介護判定を必要とする高齢者の数が増加の一途です。在院日数の削減によるわが国の医療費は一時的には目減りに向かうことは必至であり、その反面今後は介護保険からの拠出金の上昇が加速していくことになります。即ち団塊の世代(1947年~49年生まれ)が75歳の後期高齢者となり高齢社会がピークを迎えていくことになります。また20176月厚生労働省は昨年の出生数が初めて100万人を割り97.7万人となり10年連続で死亡者数が出生数を上回ったとのデータを公開しました。死亡者数130.8万人と対比すると明らかに日本の人口が減っていることが理解でき、この33万人という数字は過去最大数となりました。(高齢者は約3,500万人で人口比約30%)この事実が意味するのはわが国の労働者人口が減少することで、税金や年金保険料を納付する人口が減っていき高齢者を支える絶対的な人口がいないことになります。また、新聞の報道にもありましたが医療の向上は平均寿命の伸びをもたらしました。しかし人口構造の変化はもとより少子化がこれ以上進むことで、2050年には現在の「騎馬戦型(3対1)」から「肩車型(1対1)」となり、ひとりの現役世代がひとりの高齢者を支えなければならない現実が待ち構えています。

 

●厚生労働省HPより転載

そこで最近よく耳にするのが在宅医療や『地域包括ケアシステム』という言葉です。

 厚生労働省のHPには上記の図を示しながら、2025年(平成37年)を目途に、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最期まで続けることができるよう、地域の包括的な支援・サービス提供体制(地域包括ケアシステム)の構築を推進しています。との趣旨が述べられています。

これを簡単に言うと、要介護の高齢者が住み慣れた自宅や地域で暮らし亡くなるまで、医療機関と都道府県及び市町村の各自が協調関係を持ちながら「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」を要介護者にバランスよく提供していくシステムです。医療機関も今後は、病床機能報告制度(病院・病床において担っている現在の医療機能と今後の方向について、病棟単位で自ら選択し、毎年都道府県に報告する仕組みです。また医療機能に加えて、病棟の設備や人員配置、具体的な医療内容も報告)で報告された提供情報を考慮しながら都道府県が地域医療ビジョンを策定するルーティンになるので医療機関のマネジメント能力とともに看護やリハビリの管理職の責任と仕事量は多大になります。これは高齢者に限らず、例えば末期ガンの患者さんが自宅で最期を迎えたいと考えている場合にも同じことが言えます。タレントの小林麻央さんのケースもありましたが今後、自宅での看取りは増加していくことになるでしょう。病床の削減と並行して患者さんやその家族の思いは自宅での最期へと変容しつつあります。しかしながら訪問看護やリハビリが可能な看護職やセラピスト(PT OT ST)の就業者数はまだまだ少ないのが現状です。日本看護協会は新卒の訪問看護師育成プログラムを数年前より実践を始めましたが、現実的な絶対数の養成には至らず課題は山積しています。実際に訪問医療では看護職・リハビリ職は保険点数がきちんと加算される医療体系になっており、看護系学校では既にカリキュラム上で訪問・在宅看護の学びが進んできました。その一方でリハビリ系のセラピスト養成校での現状は終末期における学びがほとんど享受できないカリキュラムになっているため今後のカリキュラム改定が予想されるところです。

 

このように少子高齢社会が切実なわが国では超高齢社会の切り札として20004月には公的介護保険制度が新たにスタートし、2008年からは予防医学(病気にならないように予防する健康医学)の一環としてメタボリック検診などが実施されるようになり、日本中で医療や福祉に対する関心が高まっています。また難しい話になりますが20064月には7: 1看護など、病棟の患者さんに対する看護師の人員の基準が厳しくなり、特に看護師は全国各地でまだ不足している状況です。急性期の病床の増減を繰り返しながら、今後の政策医療のベクトルは前述した地域包括医療システムの確立など在宅医療に向かっていることに疑いの余地はありません。

このような時代において、世界的に何かしらの国家資格を取得できる大学、専門学校への進学傾向が高まり、わが国においても近年、少子化の要因による18歳人口の低下で一般の短大や大学へは比較的入学し易い状況があるものの、看護・医療系学校は大学など学校数が増加した現在も、他学部他学科と比較して入学難易度が高い現状があります。その理由は、高校3年生はもちろん、確実に就職が確保できるということで社会人からの進路変更組も加わり、実際の入試では大学卒・短大卒社会人受験生が数多く見受けられ、高校3年生を脅かす存在となっています。先ずは自分自身が大学に行くのか、それとも専門学校にするのか、さらにはどのスタイル(AO・推薦(公募・指定校)・社会人・一般入試)で入試に臨むのかできる限り早期に決定し受験対策をしっかりと立てていくことが重要であると言えます。

 


写真提供 独立行政法人国立病院機構 京都医療センター附属看護助産学校【実習の様子】

 

看護大学の数と大学定員の推移(1991年度~2019年度)

 

 
看護・医療系大学(専門学校を除く)1学年の定員約45,000人➡このデータから看護と医療系を合わせると大学(除く専門学校)だけでその一学年定員が社会科学(法学・政治学)といった既存のメジャーな学部・学科を上回る定員となっていることがわかります。